Books translated by Mari Takenouchi竹野内真理の翻訳本

Books translated by Mari Takenouchi 竹野内真理の翻訳本
『人間と環境への低レベル放射能の脅威(The Petkau Effect/ Original German: Der Petkau-Effect Katastrophale Folgen niedriger Radioaktivitat)』
『原発閉鎖が子供を救う(Radioactive Baby Teeth: The Cancer Link)』
『低線量内部被曝の脅威ー原発周辺の健康破壊と疫学的立証の記録(The Enemy Within)』
『内部被曝』(扶桑社新書)ーあとがき執筆

2013年2月7日木曜日

ストロンチウム90:みんな、乳歯を保存しておいて!

2014年より、福島県の歯科医師会が乳歯を集めるそうですがminpo.jp/pub/topics/jis、万一のため、独自の調査も必要な気がします。

汚染地帯の人、乳歯を取っておいてください。特に松戸に関しては、事故前の乳歯を私は測定してもらったことがあります。

まずはストロンチウム90の毒性について記します。

それから私の訳本『原発閉鎖が子どもを救う』の後書きから、抜粋したものを下に記します。

訂正:岩手の学生さんの尿からストロンチウム90が出た話ですが、情報源の方の聞き間違いで、正確には学生さんの髪の毛から平均値より高いストロンチウムが検出されたそうです。ストロンチウムには何種類もの同位体(Sr82、85、87、89、90、91など)がありますが、その組成までは情報を得ていないということです。↓


ツイッター@mariscontactで、ストロンチウムは(体内沈着すると・という意味です)排出されない、岩手の学生さんの尿からストロンチウム90が検出された話をしたら、「尿から出ているんだから排出されてるじゃないか」と嘲笑したり、「尿から出ているから沈着しない!」とでたらめを言う多数の工作員が出現!

ストロンチウムは食物摂取された15~45%は体内に沈着され排出されないのですよ!そういう意味です!

ストロンチウムツイートをした後、中には、「殺すぞ、ババア」と脅迫する、 ‏のような、犯罪工作員まで!

(その後、このアカウントは削除されました。削除前に本人の画像も出回り(20代の若者男性)、「自分の両親にも見せて反省しました」という謝罪ツイートは一応ありましたが、そのようなことをする人物であれば、上記の暴言はそもそも出てこないと私は考えています。2012年8月には45歳くらいの男性が、いきなり通りで私の当時2歳の息子に近づき、意味不明の言葉を吐きながら、抱き上げたという事件もあり、今でも私は身辺を警戒しています。いつも命がけでヤバイ情報を出しているので。→例:「もしも私が殺されたら、エートスと もんじゅ西村事件を 全世界に広げて」(mariscontact 竹野内真理)http://t.co/UbyIn1MRどうぞ皆さんも、ヤバイ情報を一緒にどんどん出したり拡散したりしてください。みんながヤバイ情報を広めれば、私の危機感も少し薄れます。どうぞよろしくお願いいたします。)

Sr90は原子力村にとり、非常にヤバイ物質なのです。
 
岩手の学生さんから(平均値より高い)ストロンチウムが検出されたことについて警告する私を攻撃してくる馬鹿どもは、「国家による緩慢な市民の毒殺を傍観していろ」、という殺人共犯者です。

毒殺を傍観せず、市民を守り漁業者は生活補償されねばならない!


私は当たり前のことを言っている!!







ストロンチウムの毒性について


ストロンチウム90は、その昔、レイチェル・カーソンが化学物質とともに「邪悪な相棒」と称した物質で、核実験が行われていたときは、その有害性のために世界各国で研究が行われていた、大変危険な物質です。今回の福島事故では、神奈川県でもかなりの量のストロンチウムが検出されてしまっています。以下にストロンチウムの毒性を記します。

(出典:グロイブ著『人間と環境への低レベル放射能の脅威』、2006年スターングラス博士インタビューhttp://www.e22.com/atom/page08.htm、放射線医学総合研究所監修『人体内放射能の除去技術』など)

*ストロンチウムはミルクや穀物の外殻に蓄積されやすい。(両方とも基本となる食物なので始末が悪い。ちなみに1963年、ドイツでは黒パンの流通を禁止することを考慮)
*カルシウムに似た親骨性の物質であり、ベータ線を放出する。ベータ線はアルファ線より飛距離があり、骨髄により効率的に到達してしまう。ストロンチウム90は、骨髄で作られる白血球の正常な機能を阻害するため、ガンや免疫低下、免疫低下に起因する感染症、肺炎などを引き起こす。


1968年、オスロー大学のストッケらは、ストロンチウム90を与えた動物実験で、わずか0.01ミリグレイ(ミリシーベルト)であっても、高度な骨髄細胞への障害を観察した。また、0.1-1ミリシーベルトのストロンチウム90でも動物実験で、骨髄の減衰が見られた。


*あまり知られていないが、カルシウムは神経の伝達にもかかせない物質であるため、ストロンチウムは脳にも入り込み、神経にダメージを与えるため、脳の発達に支障をきたすようになる。


*低体重児の出生率と人体中のストロンチウム90の濃度は大きな相関関係がある。また、妊娠の何年も前から蓄積されたストロンチウム90により、流産の危険性が高まる。
*ストロンチウムの娘核種のイットリウムは脳下垂体に蓄積するが、出産前の2-3週間にこれが起こると、肺胞に必要な脂質の生成が不十分になり、胎児の肺機能の成長を阻害し、出産後に見かけはなんら異常のない赤ん坊が呼吸器系疾患で死亡するケースがある。


*ストロンチウムの娘核種であるイットリウムは、すい臓にも集中し、糖尿病やすい臓がんの原因になる。


*ストロンチウムの吸収は早く、ラットに皮下注射した実験では、6時間後には体内量の70~80%が骨に沈着する。


*食物中のストロンチウムは15~45%が消化管から吸収されるが、絶食させたり、ミルクまたはビタミンDと与えると吸収率は高まる。


*乳幼児では、骨形成が活発であるため、より多くのストロンチウムを取り込む危険性があり、授乳中のラットの実験ではほぼ完全に吸収されてしまう。


*ストロンチウムの代謝については1940年代から動物実験が行われ、ほぼデータがそろっているが、今後ヒトの胎児におけるモデル構築や、効率のよい排出法、被ばく低減化を図る研究が重要となってくるだろう。


*乳歯におけるストロンチウム含有濃度が核実験時代には、何倍から何十倍も高まり、大気圏内核実験禁止条約への一助となった。また、米国では、原発周辺に住む子供たちの乳歯のストロンチウム濃度と小児がんの発生率が相関関係を持って高まった。逆に、原発を閉鎖した地域で、乳歯のストロンチウム濃度と小児がんの発生率が下がるという逆の現象も起きている。(この内容の出典は以下の本からです)

 
 
 
~ジョセフ・マンガーノ著『原発閉鎖が子どもを救う』
(戸田清、竹野内真理訳)より

訳者あとがき


 

―米国での核問題の歴史と今日本で起きていること―

 

竹野内真理

 

大変な内容の本である。原発は通常運転でもガンなどの健康リスクをもたらしているというのだ。悲しいことに特に被害が顕著なのは年齢の低い子どもたちである。未来そのものである子どもたちへの健康被害は我々が最も憂慮すべき問題だ。著者のマンガーノ氏は、乳歯に含まれるストロンチウム90の濃度と小児ガンの発生率という、他に類を見ない疫学調査により、米国における原発の周辺地域における健康被害を見出した。福島原発事故後でさえいまだに原発再開が議論となっている日本。すべての人々に今読まれるべき本であると思う。

本書は、放射能の人体への蓄積とガン発生率の増加のデータを表した「科学」的な本だ。そして同時に、「健康被害はない」とする当局に対し、どのように人々が協力して対抗していったかも細かく描いたドキュメンタリーでもある。乳歯に含まれる放射性物質問題ついて、市民が芸能人と協力して広めるかと思えば、こっそりと州の予算をかすめとることもある。深刻な話題であるにもかかわらず、痛快なエピソードも取り入れた楽しい読み物でもある。多岐にわたる分野の人々が関わり、脱原発運動をより効果的に導いている過程が面白い。独立精神を持った科学者、子どもたちの健康問題を危惧する市民、運動に加担する芸能人、学校関係者や宗教法人、地方公務員や政治家、マスコミ。そして特に、小児ガンに関わる医療関係者、子を思う親、特に母親の活動はめざましく、心に響く物語が多々ある。福島原発事故以後の日本でも参考にしたい内容だ。

 

米国における放射線被曝とユニークな反対運動の歴史

 

ここでアメリカでの核問題の歴史を本書の内容を交えながら簡単に振り返る。意外に思われるかもしれないが、世界最初の被爆国は、日本ではなく米国である。長崎型のプルトニウム爆弾の核実験がニューメキシコ州アラモゴードで19457月に炸裂、その後もネバダでは100回に及ぶ大気圏内核実験が繰り返され、米国は核のおおいなる加害者であるとともに、おおいなる犠牲者でもあったのだった。

1950-60年代初頭まで、核実験は意図的に風がラスベガスやカリフォルニア方面でない向きに吹くときに決行され、結果ユタ州南部では、何千頭もの家畜が死に、人々の間でも健康被害が出たという。ところが、住民たちの訴えに反し、当時の米原子力委員会は一貫して被害を隠蔽。30年もたった1992年になって初めて、米政府は核実験により、最大で212000人の米国人が甲状腺がんに罹ったと明かしたという。

60年代当時の原子力委員会の中でも、被害を発表しようとした良心的な科学者は存在したのだが結局上司に隠蔽されたという。「ともかく私たちは国民に安全だと言ってきたのだ。いまさら話を変えるわけにはいかない。われわれ自身が窮地に陥ってしまうからね」と言った原子力委員会の部長もいたという。(日本でも現在同じ会話がなされている可能性はないだろうか。)

そのような時代の中で立ち上がったのが、市民と科学者が一体となって運動した「乳歯調査」プロジェクトであった。特に力を発揮したのは、小さい子どもたちの健康を憂慮する母親たちであった。彼女たちがこの運動を大いに盛り上げ、ついには大気圏内核実験の停止を求めた。米国では10万人もの女性たちがワシントンDCを取り囲んだこともあったという。

さらにセントルイス市での乳歯調査では、多くのボランティアの力も借りて何十万本もの乳歯を集めた。ちなみに1964年、セントルイスの子どもたちの乳歯中のストロンチウム90の濃度は、核実験以前の時代に比べ、20から80倍にまで増加してしまったという。(あまり知られていないが、その後乳歯調査はチェコ、デンマーク、英国、フィンランド、グリーンランド、ノルウェーでも行われた。)大気圏内核実験禁止条約は、米国上院を大多数の賛成で通過、ケネディ大統領も条約に署名した。このとき、上院議員たちに訴えた主婦や母親たちの力は大きかったという。

 

さて、大気圏内の核実験が禁止された後も、核産業によってもたらされる難が去ったわけではなかった。平和利用という隠れ蓑を着た新たな核問題である「原発問題」である。当時の米国原子力委員長はなんと、「原子力により、飢餓がなくなり、病気が克服され、人々が長生きするようになるだろう」、と演説したという。当時米国で原発は、政府により強力に後押しされ、1000基もの原発建設を予定していた。しかし結局さまざまな問題により、ピーク時で111機、現在米国では104基にとどまり、1979年のスリーマイル島原発事故後の新規稼動はほとんどない。しかしその間、日本を含む他の国で、米企業GE型とウェスティングハウス型の原発が数多く建設されていき、世界には現在430基超の原発が存在している。そして日本は54基である。

日本は米国の核の犠牲に何度も見舞われている。広島、長崎、第五福竜丸、日常的な原発労働者の被曝、そして福島だ。早稲田大学教授の有馬哲夫氏の「原発・正力・CIA」(新潮新書2008年)にも詳しいが、そもそも原発が日本に導入されたのは、第五福竜丸事件で反核機運が高まったとき、米国のCIAと読売新聞社および日本テレビの長であった正力松太郎が、日本テレビの後の専務となる柴田秀俊による「毒を持って毒を制す」という妙案を取り入れ、日本人の反核、嫌米感情を封じこめようという戦略に基づいていたという。おりしも2011723日、その経緯の一部を示した米公文書が開らかにされた。アイゼンハワー大統領は’54526日ダレス国務長官に覚書を送り、被爆事件後の「日本の状況を懸念」していると表明。「日本での米国の利益」を増進する方策を提示するように求めて、無知な日本人に、その後原子力平和利用を推進することとなった。(共同通信が文書を入手、724日中日新聞および沖縄タイムスで記事が掲載)

ところで米国スリーマイル島の事故では、公式には被害者は出ていないということになっているが、1990年コロンビア大学は、事故後にガンの発生が期待値の2倍になったと発表している。しかしなぜか原発事故との因果関係は言及していない。ちなみにコロンビアは9大学連合のひとつで、エネルギー省から膨大な研究資金を得ており、教授たちは研究計画の選択に意見することを禁じられていたという。有名大学の教授が原子力政策になかなか反対しない構造は、日本と似ているのではないか。

スリーマイル事故数年後、住民の間でガンの発生率の上昇が取沙汰されると、電力会社は3000万ドルを住民に支払ったという。ただし、因果関係は認めないままだった。さらに事故20年後には、原告2000人が連邦法廷にスリーマイル事故による健康被害問題を訴えたという。しかし連邦法廷の判事は訴えを棄却し、事故と健康被害の因果関係の立証の機会は阻止されたという。公式には犠牲者は出なかった、とされているスリーマイル島事故。舞台裏には実はこのようなエピソードがあったのである。

さて、米国の著名な統計学者ジェイ・グールドは、上記のスリーマイル島事故のいきさつの記事を読み、疑問を抱く。そして96年、スターングラス博士と運命的に出会う。グールドは、1971年より停止されていた乳歯中のストロンチウム90の測定を原子炉の周辺で再開するというアイデアを出し、スターングラスも即賛成する。そしてふたりは「放射線と公衆衛生プロジェクト(RPHP)」を設立し、低線量放射線と健康についての調査を始動させた。グールドは70歳でビジネスから離れ、自らの財を投じ、米国における大規模な公衆衛生疫学調査をおこなった。そして90歳で死去するまでに『死にいたる虚構(The Deadly Deceit)』と本書の姉妹本である『低線量内部被曝の脅威(The Enemy Within)』という書を世に出しながら低線量被曝の危険性の啓蒙活動を続けた。その間、本書の著者で公衆衛生学者である若手のマンガーノ氏も加わり、スターングラスとグールドの研究を引き継いで、本書の刊行となった。

米国は日本と違い、1973年より全国規模でのガン登録制度があるため、このような疫学調査が可能である。ニュージャージ州、フロリダ州、コネティカット州などの原発周辺や、ブルックヘイブン研究所のあるニューヨーク州ロングアイランドなどで特に、核実験が終わったにもかかわらず、乳歯中のストロンチウムレベルが高まっていること、小児ガンが増えていることが見出された。さらに驚くことが、原発が停止された地域では、ストロンチウムのレベルも、小児ガンのレベルも下がるという現象まで見られたのである。これは大変な発見である。RPHPはこれらの調査結果を現在までに10本近くもの査読を通過した学術論文として掲載、20回以上もの記者会見をいったという。その結果RPHPの活動は、各地の地方新聞、さらには全国紙であるUSAトゥデイやCNNBBCといった大手マスコミにも報じられたというのであるから、この手の独立系の科学研究としては、かなりな実績を残しているといえる。

 

日本で猛威を振るう「ジャンク・サイエンス(とんでも科学)」

 

もちろん、この間、RPHPの活動はスムーズに広まったわけではない。そこにはすさまじいまでの原子力推進派、体制派、連邦および一部の地方政府からの横槍が入ってきたし、今もそれは続いている。RPHPへの批判の中でもひときわ目立つのが、「ジャンク・サイエンス」という形容だ。この形容は米国エネルギー省管轄のブルックヘイブン研究所のムッソリーノ博士がRPHPの乳歯調査に対して初めて使い、以後、体制側の様々な機関や個人から、裏で申し合わせたかのように同じ言葉や内容の批判が繰り返されるようになったという。(現在では日本でも、低線量被曝の危険性を唱える科学者の説に対して、「ジャンク・サイエンス」という言葉が使われているようだ。)

大気圏内核実験停止後、米国では人体に蓄積された放射能の濃度を検査は1982年で中止されている。RPHPはその後、乳歯中のストロンチウム含有量を通じて、体内中の放射能測定を再開した唯一の機関だ。この研究に原子力推進の体制側が、ネガティブな宣伝作戦に出たのは、この研究が潜在的に多大な影響力を持ちえるからではないだろうか。

体制側の人物の登場する面白いエピソードが、ニューヨーク州ウェストチェスター郡の保健局のリプスマン博士がマンガーノ氏の講演会場に直接のりこみ、この形容詞をつかって誹謗中傷しているシーンである(第11章)。リプスマン博士は、マンガーノ氏の論文を読んでいないにもかかわらず、聴衆に向かって「乳歯調査はジャンク・サイエンスである」と訴えたという。これに対し、その場で抗議した州議会議員とのやりとりが再現されている。ちなみにRPHPの出版物に対するAmazonへの投稿でも、科学的かつ具体的な理由を述べずに、この「ジャンク・サイエンス」という単語は多用されている。英文ではあるが、興味のある方はネットで読んでみてほしい。(後述するがアマゾンへのカスタマーレビューにおける、「低線量放射能無害論者」側からの執拗な攻撃は、日本語版でも同様である。)

訳者には、この「ジャンク・サイエンス」という形容は、今まで「健康に害はない」と強弁してきた原子力推進の体制側の学者の方たちにそのまま当てはまる気がしてならない。それには、本書に出てくる米国人科学者のみならず、日本の学者も含まれる。

放射線影響研究所名誉顧問であり、元ICRP委員、IAEAチェルノブイリ影響調査のリーダーであった重松逸造氏は1991年、現地の医師たちがチェルノブイリの子どもたちの健康異常を訴える中、「汚染地帯の住民には放射能による健康影響は認められない、むしろ、放射能恐怖症による精神的ストレスの方が問題である、1平方km当り40キュリーという移住基準はもっと上げてもよい」と結論付けたそうだ。(イタイイタイ病のカドミウム原因説、スモン病のキノホルム原因説ともに否定してきた重松氏の経歴はhttp://arita.com/ar3/?p=4674にも詳しい。)

福島原発事故後に福島県放射線リスクアドバイザーおよび福島県立医科大学副学長に就任した元長崎大学教授の山下俊一氏は、重松氏とは間接的な師弟関係にあると聞くが、福島のある講演会で、放射線の影響は実はニコニコ笑っている人には来ません。クヨクヨしている人に来ます。これは動物実験で明らかになっています。」と話したそうである。ちなみに山下氏は医師向けの文書では「10100ミリシーベルトの間で発がんのリスクを否定できない」と書いていたにもかかわらず、福島県民には100mSvまでは妊婦も安全と繰り返し説明したそうである

また、低線量被曝はかえって健康によいとするホルミシス効果を推し進める近藤宗平氏は、著書『低線量放射線の健康影響』(近畿大学出版局、2005年)において、ポーランドのある科学者の分析を引用しながら、「長い目でみた場合のチェルノブイリ事故の教訓は、原子力発電は安全であることを証明してくれたことである。」と書いており、今回、福島原発事故後の4月に第3版第6刷が発行された『人は放射線になぜ弱いか 第3版』(講談社ブルーバックス1998年)の冒頭加筆部分には、「今回の被ばくは生命に危険を及ぼすことはまったくありません」と書いている。まだ事故の収束もなっていない現段階でいったい何を根拠にしているのだろうか。さらにタイトルのイメージとは裏腹に、本書の最終章のタイトルは、「原発事故放射能にびくともしない人体」であり、政府の放射線管理体制は厳しすぎる、無駄遣いである、と指摘して終わっている。ちなみにホルミシス効果は一時的で永続性がないことが共通する特性としてあげられており、放射線防護に反映することはできないとされている。(放射線医学総合研究所編『虎の巻 低線量放射線と健康影響』)従って、低レベルの放射線に継続的にさらされている今日の日本では、ホルミシス効果は決して当てはめてはならない害のある理論なのである。

ところで、放射能に関するトンデモ本は、国内本だけに限らない。海外からの翻訳本でも驚くような内容の本が出ている。その最たる例が、オックスフォード大学名誉教授ウェード・アリソン著『放射能と理性』である。この本は、文字通りに殺人的な本で、原子力をいまだに強力に推進すると共に月に100ミリシーベルト、生涯で5シーベルト(半数致死量以上)受けても良い、という本である。さっそく私は星ひとつの評価をつけ、「数値があまりに非科学的であること、もしその理論を自分で正しいと思うなら、アリソン教授ご自身が5シーベルトを受けるまで福島に長期滞在して自身の理論を証明したらどうか、またお孫さんを福島に来させることはできますか?」と書いたところ、またたく間に書評自体が消されてしまった。2度、3度と投稿しても消されてしまうのである。(2度目の投稿では70人以上、3度目の投稿では50人以上の人が参考になったボタンを押してくれたにもかかわらずである)

アマゾンでは他にも不思議なことが起きている。肥田舜太郎医師と私の共訳書である『人間と環境への低レベル放射能の脅威』へのカスタマーレビューでは「突風」というニックネームの書き手が、星1つという最低のランクをつけた上で、専門家であるかのように、ペトカウ博士の科学論文を引用した上で、肝心な同書の内容について、内容とはまったく正反対のことを述べた上で批判している。既に活字となっている本そのものを正反対のことを言って紹介し、まだ読んでいない人々を欺こうとしているのだ。

後から気づいたことだが、このアマゾン上の人物は、本書の姉妹本である『低線量内部被曝の脅威』にも、星ひとつと共に、「確かにトンデモ本」というタイトルで、専門知識があるがごとく、統計学のカタカナ用語をちりばめながら、内容的にまったくのでたらめを書き、批判している。(米国で司法省および環境保護庁に雇われていた統計学者の故グールド氏が天国でさぞかし苦笑していることだろう。)さらに肥田舜太郎氏と鎌仲ひとみ氏の共著である『内部被曝の脅威』にも意味の通じない酷評を載せていた。やり方が同じである。私の友人たちも、この「突風」氏のカスタマーレビューには、「違反報告」のボタンを押したが、「強力な原発推進論者」であるアリソン博士に対する私の書評のように、消されてしまうことはないようなので、ご興味のある方は覗いてみていただきたい。

 

知られていない内部被曝の真実

さて、内部被曝については、真実が残念ながら日本の大手メディアが伝えないようなので、ここでまとめてみようと思う。大きく5点あるのだが、まず1点目は生体への影響が無視されている。たとえて言うなら外部被曝は、炭火の暖炉に当たっているようなものであり、内部被曝は火のついた炭火を鼻の穴や口の中に入れてしまうに等しい。しかもこの火は、自然の火のように完全に消えることがないのである。生体への影響が異なることは明らかであり、体内のどこに沈着するかによって、度合いも異なることは明白だが、このあたりまえの点が無視されている。

第二に、日本政府がよりどころとしている、ICRPの基準であるが、ICRP自体がこの内部被曝のリスクをきちんと考慮に入れていない。実際2009年には、ICRPの科学事務局長(Scientific Secretary)を20年務めたJack Valentin博士が、「内部被曝による被曝は数百倍も過小評価されている可能性があるため、ICRPモデルを原発事故に使用することはもはやできない。体制側にある放射線防護機関は、チェルノブイリのリスクモデルを見ておらず、誤った評価をしている」と告白したというのだ。http://vimeo.com/15398081

第三に、多くの学者が引用している「100mSVまでなら健康に被害はない」という主張であるが、近年はそうとも限らない研究が出てきている。たとえば2007年に放射線医学総合研究所発行の『虎の巻 低線量放射線と健康影響』を見ると、始めのほうのカラーで読みやすいページには、100mSV以下ではリスクのないような書き方をしているが、後半のより専門的なページには、以下のような引用がある。2005年には15カ国の被曝労働者を対象にしたWHO国際がん研究機関が行った検査で、「10mSVでもがんのリスクが有意に検出された」というのである!また、低線量において影響が急激に高まる「ペトカウ効果」は、近年では「逆線量率効果」という専門用語がついているほど認知された理論であり、上記の書では、なんと三箇所で上に凸の線量効果曲線が引用されているほどである。

第四に、それぞれの核種の毒性が十分に語られていない。例えば、セシウムについては尿として排出されるので、たいした毒性はないかのように説明する学者がTVに登場していたが、ゴメリ医科大学元学長で病理学部長であったバンダジェフスキー博士によると、ゴメリ州で突然死した患者の実に9割で腎臓が破壊されていたという。さらにバンダジェフスキー博士によれば、セシウムは新陳代謝の少ない心筋に重大な影響を引き起こし、現在のベラルーシの死因の半数以上が心臓病であるという。子どもたちの間での心臓疾患の増加も深刻で、この事態は、ドキュメンタリー映画「チェルノブイリハート」にも生々しく描かれている。またセシウムは、甲状腺がんもヨウ素と相乗効果を持って引き起こすというし、腎臓、肝臓、免疫系、生殖系、消化器系、ホルモン系などあらゆる臓器に悪影響を引き起こすという。(ちなみに久保田護訳のバンダジェフスキー博士の論文は近日中に合同出版から出版予定である)

ストロンチウム90についても、骨に蓄積し、ガンを引き起こすほかにも免疫力の低下、流産の増加を引き起こす非常に危険な物質である上に、なかなか排出されないというやっかいな性質を持つ。さらにストロンチウム90が崩壊した後に生成される娘核種のイットリウム90は、すい臓に蓄積し、糖尿病やすい臓がんの原因になるほか、脳下垂体に蓄積することで、胎児の肺機能の形成を阻害し、見た目はなんら健康児と変わらない赤ん坊が突然死を起こすことがあるというのである。

5点目は、なんといっても日本の基準値500Bq/kgが高すぎることだろう。このことについては、1014日発売の「週間金曜日」の私の記事にも詳述しておいたが、たった一日10Bqのセシウム摂取であっても、70kgの成人で600日後に、30kgの子どもであれば、100日以内に体内濃度20Bq/kgに達してしまうというグラフが2009年にICRPPublication111に掲載されている20Bq/kgというのは、先に述べたバンダジェフスキー博士が心臓に異変が生じ始めるとする体内濃度であり、一日10Bq というのは、大人で現在の日本の基準値のたった100分の1の濃度の食料を摂取した場合の話だ。体制側が金科玉条のように扱っているICRPのデータなのだから、誰も文句が言えないはずだ。日本の500Bq/kgは成人にとっても殺人的に高い。子どもについては、ドイツの放射線防護委員会の基準値は4Bq/kg、さらに10月に来日したベルラド研究所のウラジーミル・バベンコ氏は、「子どもに関してはゼロBq/kgにすべきだ。」と述べているほどである。

この問題は子どもたちの命や健康に直結するので、この事実に関する情報の普及は緊急を要する。なぜNHKを始めとするマスコミは、報道しないのだろうか。政治や利権から発生したジャンク・サイエンスではなく、真のサイエンスを、専門家もマスコミも追求してほしい。そして、なによりも、人々の健康を預かる日本医師会及び日本全国の医師の皆さんにも早くこの事実を認知してほしいし、その上で行動を起こして欲しいのである。そうでなければ、私は日本の未来はないと真面目に考えている。

 

福島事故後のお母さんたちの反応

 

子どもたちの将来を一番真剣に考えるのは、言わずもがなお母さんたちである。自分も1歳の息子がいるので痛いほどよくわかる。文部科学省の学校における20mSVを上限とする対応は、子どもたちの将来を無視した残酷極まりないものだった。命や健康を無視して教育もへったくれもない。腹の底から怒りを感じ、直後に文部科学省に抗議の電話をかけた。担当者によれば抗議電話は他にも結構あったらしいが、予想通り気のない返事であった。

そのような中、福島のお母さんたちを中心にした市民が文部科学省を取り囲み、学校での被曝上限を1mSVにさせた出来事は圧巻であった。子どもを心配するお母さんたちは涙を流して官僚たちに訴えた。子どもたちの命や健康を想う心は、お母さんたちにかなうものはない。私は時々、政治家も官僚も、お母さんたちや女性たちを少なくとも半数にすべきではないかと思うことがある。命が一番大事であるというあたりまえの真実が、どうもこの国の政治には反映されていないからである。そして子どもたちの将来のために行動するお母さんたちは、かつて米国において大気圏内核実験が止まったときのように、大変な力を持っているからである。

ところが先日、別の知り合いのお母さんから、違う様子の話も聞いてショックを受けた。この福島原発事故に関して、まるで「見ざる・言わざる・聞かざる」のようなお母さんたちも結構いるというのである。つまり、思考停止してしまったのか、考えることがあまりにつらいのか、日本特有の事なかれ主義で目立つのが嫌なのかは知らないが、周りのお母さんと歩調を合わせて、事故の話をするのをタブーにしている母親も大勢いるという。普段どおりに行動し、挙句の果てにはホットスポットが見つかったという地域の近くでさえも、芝生の上で赤ん坊を這わせている。給食や食べ物にもあまり気を使わず、鼻血が出ても、放射能のせいだとは考えない。数年後に例えばその赤ちゃんや子どもが小児ガンなどの重い病気になって苦しむのを見たとき、その母親はどうするつもりなのであろうか。

こういうお母さんたちは、自分の今の精神的安定を求めるため、ジャンク・サイエンス的な楽観論を掲げる専門家たちを敢えて信じているのであろうか。すなわち、気にせずニコニコ笑って普段どおりに行動すれば、放射能の被害が自分たちを避けてくれるとでも思っているのであろうか。しかしその間にも、科学的に引き起こされる子どもたちの真の健康への実害は、かわいそうなことに罪のない子どもたちが背負わねばならないのである

もちろん、母親は子どもをすぐにでも安全な場所に連れて行きたいのだが、祖父母や夫に理解がなく、生活を変えられないというケースも多いと聞く。悲しいケースが、放射能についてよくわからない農家の祖父母が自分たちの作った汚染野菜を無理やり嫁と孫に食べさせ、子どもたちが病気になったという話も聞く。どんなに母親はつらいだろうか。このような話を聞くと、NHKなどの公共のマスコミが真実を伝えること、そして政府が子どもの命を守るための正しい政策を打ち出すことの必要性がますます明らかになる。事は緊急を要する。

しかもこのまま行けば、誰も責任を取らず、チェルノブイリでそうであったように、甲状腺がん以外はストレスのせいにするのであろう。あたりまえのことを付け足しておくが、赤ん坊や幼な子は放射能なんてことは知らないので、ストレスのせいで病気を発症したなどという言い訳は通用しない。巷では「風評被害」がいやに大きく取りざたされるが、私は声を大にして何度でもいいたい。「風評被害」より「健康被害」のほうがよっぽど大事だ。健康問題は命の問題であり、未来そのものである。しかも大人の私たちが気をつけねば、子どもたちの命や健康を守ることはできない。これ以上大事なことはないはずだ。汚染地帯から子どもを避難させ、汚染食物を子どもたちに食べさせてはならない。

 

東京での315

しかし実は私自身、上記の「見ざる・聞かざる・言わざる」のお母さんたちを全面的に非難できないような、取り返しのつかないことをしてしまった。都内で放射能雲が一番濃厚であった15日午前中、マスクをつけずにふたりで外にいたのである。赤ちゃんを持つまで気づかなかったが、一番放射能に弱い赤ちゃんは、マスクをじっとつけてなんてくれない。

私が原発問題を初めて知ったのは1999年。ある講演会で、米国人科学者が、米国での原発事故におけるシミュレーションの話をし、私は買ったばかりのコンピュータを使ってみたいと、英文入力しながら聞いていたのである。その時聞いた想定はなんとステーションブラックアウト(フクシマで起きた電源喪失事故)で、私はこのとき生まれて初めて原発の危険性に気づいた。そして事故後に「晩発死が多数発生する」という深刻な原発事故の影響に驚いたのであった。内容の重大性に驚き、その後自宅で一語一句日本語に翻訳したのだが、自分でも驚いたことに訳しながらも、訳し終えた後も、涙が止まらなくなってしまったのである。これほど恐ろしいことが世の中にあるものかと、大げさでなく自分の人生でかつてないほどのショックを受けた。

それから夢中で行動した。そして情報を得れば得るほど、原発というものがとんでもないものということを知った。しかも日本は地震という大問題もある。それまで市民活動なんてひとつもしたことがなかった私が、あたりまえのように脱原発活動にのめりこんだ。とにかく知らない人に知らせなければと思った。他人も自分同様、命に関わる大変な問題として自ら早急に行動してくれる問題かと思っていた。私にとっては、さだめし、沈みゆくタイタニックの号の亀裂を見つけたような思いで、政府関連や大使館、IAEAの人も含む、さまざまな人々に訴えた。が、実際私のような危機感を抱く人は、事故前にはほんの少数しかおらず、現実的になかなか広がるものではなかった。この間に私の感じた失望と焦燥感とストレスは極めて大きかった。

そして起きた311日。呆然として見ていたTVの画面に「電源喪失」の文字。99年にやった翻訳が頭によみがえる。背筋が凍った。冷却水が止まったからには、次に起きるのは燃料露出であり、メルトダウンだ。大量の放射能が放出されるのは間違いない。水素爆発も起こりえる。普段の私であれば、可能な限り早く東京を離れていたと思う。ただ実際にこのような事故が起きて思ったのは、「自分はこの後、福島や東北の人々の健康に大変な被害が起きるかわかっている。日本の政府や官僚、電力会社、マスコミが可能な限り事故を過小評価しようとするのもわかっている。このままでは東北の人たちが大変なことになる。政府やマスコミの集中する東京を離れる前に自分に何かできないか」とおこがましいながらも真面目に考えたのだ。

結局考えた末、14日朝にアイデアを思いついた。低線量でも起こる被曝障害について、尊敬する肥田舜太郎医師と原爆被爆者、そして被曝労働者(または遺族)を交え、外国人記者クラブで「低線量の被曝でも危険だから福島や東北の人はできる限り早く遠くに逃げよ」と警告をする記者会見を開けないかと思いついた。低線量被曝問題の大家である肥田先生とは、2003年に出会い、特にここ2年ほどは翻訳の協力を頼まれており、よく連絡させてもらっているのである。

先生に電話したところ午後にやっとつながった。先生の意見は冷静で確固としたものだった。「あなたのそのアイデアはなかなか興味深いが、今東北では津波で流されている人たちがいるのですよ。今このタイミングで低線量被曝の情報を流したら、東北に救援に行く人が少なくなってしまうかもしれない。勇み足でそのようなことをするのは、益よりも害が多い。」私は納得し、自分は浅はかだったと思った。これが原発震災の厳しい現実だ。津波や地震で打撃を与えられた地域には、まだ犠牲者・行方不明者が多い。原発事故があったとしても彼らを助けに行く人々が多数必要なのである。直前まで勝手に1人で戦闘ムードであった分、私は肥田先生に諭され、意気消沈してしまった。

電話をかけおわったとき、私は脱原発市民団体「たんぽぽ舎」のオフィスで呆然としていた。歩き始めたばかりの息子はニコニコと両手を挙げて室内を歩き回っていた。そのすぐ脇のビデオでは偶然にも、3号炉の爆発シーンが写っていた。外国人記者クラブの計画がだめになってしまった今、ドラスティックに東京から情報を世間に訴える方法はなくなってしまった。この期に及んでは、やはり大事な子どもを守るため、東京を出たほうがよいのではないか、とぼんやりと思いついた。私がそのようにたんぽぽ舎のリーダーに相談すると、「残って活動して欲しい」と言われたが、自分ひとりならともかく、やはり子どもが大事なので東京を離れることに決めた。

315日午後の便で東京を離れ沖縄に飛んだ。私は15日の朝一番の便で飛ばなかったことを今でもとてもとても後悔している。「乗ろうと思えば乗れたのに。あの時あと数時間前の飛行機に乗っていたら・・・」と過ぎてしまったことを何度も何度も思い返すのである。こんなに時計の針を逆回しできないだろうかと思ったことはない。

私と1歳4ヶ月の息子は、放射能雲が一番濃かった15日午前中から昼過ぎの時間帯、沖縄に発つ前に雑用を済ませるため、ずっと屋外にいた。今まで10年以上も原発に危機感を抱き、時には海外に移住しようかと画策していたほどの自分が、うかつなことにいざ事故が起こったら、政府による真実を隠蔽した楽観的な発表に沿った危機感のない行動をしてしまった。

もちろん政府が放射能雲の到来について正直な発表を迅速に行わなかったことに一番の非はある。SPEEDIシステムの開発に数百億もの税金を使っておきながら、公表すべきときに公表せず、国民の健康と命を犠牲にした国の行為は犯罪的であり、いつかは裁かれる日がくるであろう。いや裁かねばならない。

しかし同時に自分の心にも説明不能な油断が生まれてしまっていた。その意味で私は先ほどの「見ざる・言わざる・聞かざる」のお母さんたちを責めることができない。知識がまったくないのならいざ知らず、少しはあるにも関わらず、事故で放射能が流れてくる可能性を忘れ、親として守るべき子どもに対し取り返しのつかないことをしてしまったのだ。原発が事故を起こしたのも、放射能雲の警告をしなかったのも政府の責任であるが、母親として精一杯子どもを守る、という最も大事な責務を、理由は何であれ十分に遂行できなかったのである。

その時の自転車上での空気の感覚を今でも鮮明に覚えている。晴れていてやや風が吹いていて、普段とまったく変わらないさわやかな空気であった。しかしこのとき、世田谷区にある東京都産業労働局で立方メートルあたり数百ベクレルという濃厚な放射性物質の量が測定されていた。また、小出裕章京都大学助教の以下のデータが後から発表された。ところがこのときの国会中継はTVで放送されなかった。小出氏はデータの数値をパニックになるからと上司から発表を止められたという。http://www.page.sannet.ne.jp/stopthemonju/home/11.3.25tokyomienaikumo.pdf

 

315日における都内の2地点での測定結果

 

台東区 11:14-12:14 世田谷区 0:00-14:00



 

Bq/m3

   

 

ヨウ素131

ヨウ素132

セシウム134

セシウム137

ヨウ素131

720

0:007:12

10.8

8.5

1.9

1.8

ヨウ素132

450

7:128:23

3.4

1.2

0.2

0.2

ヨウ素133

20

8:239:00

6.2

3.4

0.8

0.8

テルル132

570

9:0010:00

67

59

12

11

セシウム134

110

10:0011:00

241

281

64

60

セシウム136

21

11:0012:00

83

102

24

23

セシウム137

130

12:0013:00

8.7

8.3

2.2

2.2

小計

 

13:0014:00

5.6

4.2

0.8

0.8

出典:小出裕章氏     東京都産業労働局ホームページより

 

もうひとつ重大なデータがある。放射線医学総合研究所が「甲状腺等価線量評価のための参考資料」と題する報告書を原発事故後の325日に出している。これは、ヨウ素やセシウムなどの放射性物質を体内に取り込んでおきる「内部被曝」についての資料で、「312日から23日までの12日間、甲状腺に0.2μSv/時の内部被曝を検出した場合、甲状腺への等価線量がいくつになるかを示している。福島では0.1μSv/hの最大値が出たというが、これは1歳児の場合であれば、甲状腺への等価線量50mSVにあたる大変な数値だ。放射能雲が一番濃厚な時間に外で1歳の子どもをおぶって自転車に乗っていた私としては、大変ショッキングな値であった。

 



年齢

0.2μSv/hのサーベイメータ正味指示値に相当する甲状腺放射能

12日間吸入摂取し、13日目に計測した預託実行線量

先条件での甲状腺等等価線量

1歳児(13歳未満)

4400Bq

5.4mSv

108mSv

5歳児(38歳未満)

4690Bq

3.2mSv

64mSv

成人(18歳以上)

6030Bq

0.8mSv

16mSv

出典:放射線医学総合研究所 2011325

 

訳者も子どもとともに体調を崩す

それからひと月ちょっとたった4月の後半より、今まで風邪で熱など一回も出したことがなかった息子が高熱を出し始めた。多くの乳児がかかるという突発性発疹というのは生後8ヶ月ころにかかったが、マニュアルどおり5日で全快し、それ以外には風邪ひとつ引かない子だったのである。翻訳の仕事が忙しく、冬の時期には近くの預かり所に4、5時間預けたことも時々あったが、周りの子どもの風邪がうつることも一度もなかった。産後に体が弱っていた私が風邪を何度も引いて熱を出しても、添い寝をしている息子にはまったくうつらないくらい健康で丈夫な子どもだった。免疫が切れるといわれる生後6ヶ月から1年も難なく過ぎ、14ヶ月の息子は病気知らずのすこぶる健康優良児だったのだ。

沖縄の保育園に行っても、入学して2週間は今まで通り元気であった。しかしその後体調を崩してからは、一ヵ月半あまりの間に合計10回以上も高熱をだした。熱が下がったときに保育園に連れて行っても、園の先生によれば、座りっぱなしのときが多くなったり、みなで散歩に行っても途中で歩くのを止めてしまい、先生が抱っこして運ばねばならかった時もあったと聞いた。真っ先に頭にかすんだのは、「原爆ぶらぶら病のようになってしまったらどうしよう」だった。子どもの元気がなくなることほど母親として心配なことはない。食欲も落ち、一時期は丸々していた体がやせてしまった。また体中に発疹が出やすくなり、一時期はかわいそうなくらい全身ボツボツだらけになった。今まで抱いた時の感触がつるつるだった肌が、ざらざらになった。そして風邪がやっと治ったかと思った矢先、ウィルス性の感染症である手足口病にかかり、咳もしばらく続いた。2ヶ月経てやっと回復したが、その後軽い下痢を起こした。こんなことは以前はなかった。もちろん子どもは放射能なんか知らないので、放射能恐怖症・ストレス性などということはありえない

「ママ、ジュース、わんわん」とやっとしゃべれるようになったかわいい息子。健康優良児で生まれ、母乳をなるべく長くやって元気な子に育てようと頑張ってきたのに・・・。息子が調子を崩すたびに、315日の放射能雲のことを思い出し、悲しい気持ちでいっぱいになる。(東京にいた私でさえ、こうなのである。福島のお母さんたちは、いかほどであろうか。)

体調を崩し始めたとき、私自身は2冊目の翻訳書『人間と環境への低レベル放射能』の最終校正で忙殺され、心配している暇もなかったのだが、息子と同時期くらいに熱が出始め、5月のはじめには、検査をしてもインフルエンザでも肺炎でもないのに、39度台の熱が連続8日間もまったく下がらなかった。そのような風邪を私は人生において引いたことがない。しかし始めのうち私は、締め切りのことばかり考え、315日のことはほとんど頭になかった-というか、考えようとしていなかった。実際被曝していたとしたら、あまりにも自分にとってショッキングなことなので、無意識に思考停止していたのかもしれない。

本格的に気付いたのは、6月初頭、広島の被爆医師である肥田舜太郎先生から、野呂美加さんの「チェルノブイリのかけはし」という団体を通じて東京で健康相談会をしたところ、東京在住の人たちにも下痢や鼻血、中には甲状腺の腫れも含む低線量被曝症状が出ているという手紙を受け取ったときだった。先生は手紙の中で、「あなたの沖縄行きの選択は正しい。子どものために東京にはしばらく戻らないほうがよい」と書かれてあった。

肥田舜太郎先生には、子どもと自分の健康相談をちょくちょく電話で話しをさせてもらったところ、長引いていたのでかなり心配してくださった。内部被曝には現在の医学ではほとんど対症療法しかないという。母子とも症状が出て2ヶ月たってやっと落ち着いたが、自分は黄色い痰だけはあいかわらずのどの奥のほうからじわじわと出続け、なんとなく気管支のあたりがむずがゆいような違和感がしばらく残った。今までになかった現象であり、非常に気味が悪かった。

米国では、核実験の死の灰が降った後、子どもの間でインフルエンザと肺炎による乳児死亡率が増えたというデータがある。内部被曝は免疫系を攻撃するため、ガンのみでなく、呼吸器系疾患や感染症を含むあらゆる病気にもつながる。日本でも今年、肺炎やウィルス性の感染症が異常に増えているという。関係がないと果たして断定できるだろうか。

616日、東京新聞では、郡山市で6歳と2歳の子どもが鼻血を出し続けたという記事を載せた。(http://savechild.net/archives/2937.html)また、ジャーナリストの木下黄太氏のブログ「警告:東京など首都圏で低線量被曝の症状が子どもたちにおきているという情報」を読むと各地で事故以後に鼻血、下痢、発熱、甲状腺の腫れ、皮膚症状、脱毛、紫斑、長引く風邪、感染症へのかかり易さなどの症状が出ており、投稿者の中には医師もいるのである。(http://blog.goo.ne.jp/nagaikenji20070927/e/945898fc22160543b404a9ca949cefe5

6月30日、とうとう福島市内の子どもたち10人の尿を検査した結果、全員からセシウムが検出されたという。なんと悲しいニュースであろうか。琉球大学名誉教授で内部被曝に詳しい矢ヶ崎克馬氏によれば、尿の検出値の約150倍が体内に残存していると推定されるという。前述の木下黄太氏によると、横浜でも6~8Bqのセシウムが尿から検出された子どもが出たという。Bqとしても6Bq×150900Bqという数値であり、仮にこの児童が45kgの体重であるとすると、体内濃度は20Bq/kg となり、バンダジェフスキー論文では、心臓に異変が起こる数値なのである!ちなみにバンダジェフスキー論文を訳した茨城県に住む久保田先生も先日ベラルーシでご自身を9月に測定したところ、20Bq/kgだったという。

75日、福島県の郡山にある地方裁判所で「ふくしま集団疎開裁判」が始まった。非常に重要な裁判で今後の展開が注目され、全国民が注目すべき裁判である。汚染地から子どもを避難させること、これは私たちが第一番にやるべきことである。繰り返えさせてもらうが、子どもを避難させてから、健康調査をすべきである。順序が逆では、福島県民をモルモットにしていると言われても、当然のことであり、これは犯罪に値するのではないか。実際に、ライターの広瀬隆氏と明石昇二郎氏は、715日に山下俊一氏を含む学者、東電関係者、行政関係者計32名を刑事告発している。http://www.youtube.com/watch?v=b_mddLgBU38

10月9日、福島県は、18歳以下の子ども36万人の甲状腺エコー検査を生涯行うことを決めた。しかし、エコー検査とは、腫瘍やガンの発見のためのものであり、その前に起こる異変を検知するには、血液検査こそが必要である。子どもたちががんになるまで待つというのであろうか?ちなみにこのエコー検査の機器は、原発メーカーの東芝と日立の子会社も入っているそうだ。しかもあまり知られていないことだが、日本甲状腺学会の理事長は、前述の山下俊一氏である!このことはいったい何を意味しているのだろう。

 

今すべき優先順位の高い三つのこと

チェルノブイリの医療支援を5年半行い、現松本市長の菅谷昭さんも映画監督の宮崎駿さんも「福島の子どもたちは皆疎開させるべきだ」と言っているという。本当にそのとおりだ。その土地に長年暮らし、どうしても離れられないという中高年以降の人々については仕方のないところもあるかもしれない。しかし、人生これからの子どもたち、そして子どもを産む若い世代に人々は、早急に取り返しのつかないことになるまえに汚染地帯から離れるべきである。当たり前のことであるが、風評被害よりも健康の実害を一番に考えなければならない。ところがこの当たり前のことが、今の日本ではやられていないのだ!やるべきことの順序がまったく間違っているのである。すなわち、まず子どもたちを避難させてから健康調査をするのではなく、被曝をさせ続けておいて健康調査とは何事だろう。まさか広島や長崎であったように、データを集めの目的で、福島の子どもたちをモルモットにする気なのであろうか。前述の山下俊一氏は、ドイツのジャーナリストから「被験者の数は何人になるのか」という質問に「200万人の福島県民全員です。科学界に記録を打ち立てる大規模な研究になります」と答えたそうだが、背筋が凍る話であり、まったく道義的に許せない事態である。とにかく汚染地帯から人々、特に子どもや若者を避難させること、これが優先順位第一位のことであり、これがなされなければこの国の未来はないだろう。

二番目に重要だと思われるのが、今後持続される食物による内部被曝を防ぐため、国で汚染されていない食料を確保することである。この本を書いている間にも、牛肉のセシウム汚染がますます深刻になってきた。内閣府食品安全委員会専門委員の唐木英明東大名誉教授などは、基準値を超えた牛肉を食べても大丈夫だと強弁している。(ちなみにこの唐木氏は狂牛病問題でも食品安全委員会委員でありながら、米国食肉連合会と関係をもち、率先して安全性をPRしていたという!)前述のとおり、日本の基準値のわずか100分の1の汚染に過ぎない食物を食べていても、ICRPPublication1112009)によれば、バンダチェフスキー博士が心臓に異変が起こるとする20Bq/kgのセシウム体内濃度に大人で約600日、子どもだと約100日で達する。日本の驚異的な基準値500Bq/kgは早期に撤廃させるべきである。同時に、農業者・漁業者には、危険な農作物や魚介類を出荷を止めさせ、十分な補償を長期にわたって支給することである。これは現状汚染地域で働き続けねばならない農家や漁業関係者の家族の健康や命を守るためでもある。また、日本全国の土壌や環境の放射能汚染の拡散を防ぐために、瓦礫の拡散や汚染ゴミの焼却を規制することも非常に重大だ

第三に、今ある原発を再稼動させないことである。これは当然のことであるのだが、それだけではない。4号炉は稼動していなくとも水素爆発にいたったのであるから、停止中の原発であっても、燃料プールおよびその周りの構造物の耐震性を確保せねばならない。原発を稼動させるかどうか以前の問題である。停止中の原発であっても、大地震と津波で大事故が起きる可能性があることは、4号炉が証明してくれたではないか!

 

さて、これら三つのことを現実的に行うには、どうすればよいか。私は一番効果的であるのは、世の中の女性たち、特に子どもたちを守るお母さんたちが立ち上がることだと思っている。政府やそれに迎合する大手メディアがきちんとした情報を伝えないのであれば、人々が情報発信源になれば良い。考えつく限りの方法で、つまりコンピュータのネットで、イベントで、出版物で、市民運動で、気づいた人々がつながり、あらゆる手段を使って声を上げることである。そういった動きは既にあちらこちらで生じている。

同時に、すでに低線量被曝によって健康障害を起こしてしまった人々が声を上げることだ。水俣でもイタイイタイ病でもそうであったが、政策を変えさせたのは、ほかでもない、健康被害に苦しみ、命を賭して国や企業に訴えた被害者たちの声であった。私たちはだまって被曝者になっているままではいけないと思う。しっかりと声を上げ、自分の世代と未来の世代においてさらなる被害が拡大しないよう、全力を尽くすべきだと思う。それが、不幸にも被曝してしまった人々の使命感となり、残りの人生の期間がたとえ多少短くなろうとも、命を燃やすことができるのではないかと考えている。

また、被曝者に寄り添い、懸命に活動している間に、94歳でもお元気で活躍している広島被曝医師の肥田舜太郎さんのような、健康で長生きの人生もありえるかもしれない。いずれにせよ、希望を捨てずに毎日を大事に生きて生きたいと思っている。

 

最後に、本書からの引用をふたつだけ挙げる。ひとつは、ペンシルベニアにある「きれいな環境を求める同盟」を妻と運営するルイス・カスバート博士の言葉である。もうひとつは故ケネディ大統領の大気圏内核実験禁止条約のための演説の一部である。(ちなみにケネディはこのひと月後に暗殺された)原子力災害にもそのまま見事に当てはまると思う。

 

「私たちには、汚染者に差し出し、犠牲者として捧げられるような、消耗品としての子どもなどひとりもいないのです。」

 

「骨にガンができ、血液が白血病にかかり、肺ガンになった子どもや孫の数は、統計学的には自然発生の健康障害と比べて少ないかもしれない。しかし、これは自然に起こる健康障害ではなく、統計学の問題でもない。たった一人の子どもの生命の喪失であっても、また我々の死後に生まれるたった一人の子どもの先天性異常であっても、我々全員が憂慮すべき問題だ。 我々の子どもや孫たちは、我々が無関心でいられる単なる統計学的な数字ではない。」

 

子どもたちの命と健康を守ることは、今の私たちの最優先課題である。そのために本書が活用されれば、訳者にとってこれ以上幸いなことはない。

 

201111月 竹野内真理

 

 

 

追記:乳歯調査と健康調査に協力したいお母さんグループと科学者を募集中

 

実は訳者は2003年、現在はホットスポットとなってしまった松戸市の幼稚園のご厚意によりいくつか乳歯のサンプルを頂き、著者マンガーノ氏の「放射線と公衆衛生プロジェクト(RPHP)」に送ったことがある。そのときの結果を頂いているので、事故前のストロンチウム数値はある程度わかる。今後市民および科学者の十分な協力が得られれば、日本で乳歯調査を行うという可能性も出てくるだろう。(このような調査が必要になること事態、悲しむべきことなのではあるが、万一この事故でストロンチウムを取り込んでしまい病気になったお子さんが出た場合、政府により因果関係をうやむやにされてしまう最悪の事態を避ける手段となりうるだろう。)
 
日本でも米国でも圧力がかかっていて、独立系の科学者で測定しててくれる人が見つかっておりません。とりあえずは、乳歯を保存しておいてください!よろしくお願いいたします。

もしこの調査にご協力いただけるお母さんたちや歯科医の方々のネットワークがあったら、ご連絡いただきたい。特に医師、歯科医、放射線関連の科学者、病院関係者、疫学者、生物学者などがいらっしゃったら、mariscontact@gmail.comまでぜひご連絡いただきたい。

 

3 件のコメント:

  1. とても優れた文章です。今後の展開、充実が注目されます。QUEMA

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  2. 真摯に将来への いのちを 守るには これほど 必要なのかと 学びます。貴女さまのお考えに賛同し 拡散させて戴きます。 fm23010 名古屋市  伊藤 文夫

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  3. 須藤さま、伊藤さま、どうもありがとうございます!

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