非常に重要な点がよくまとまっているので、引用させて頂きます!
Source:出典 http://www.com-info.org/medical.php?ima_20181211_nishio
『トリチウムの健康被害について』
独立行政法人国立病院機構 北海道がんセンター 名誉院長 (放射線治療科)、 「市民のためのがん治療の会」顧問、認定NPO法人いわき放射能市民測定室「たらちね」顧問。 「関東子ども健康調査支援基金」顧問
1947年函館市生まれ。1974年札幌医科大学卒業。 国立札幌病院・北海道地方がんセンター放射線科に勤務し39年間、がんの放射線治療に従事。 がんの放射線治療を通じて日本のがん医療の問題点 を指摘し、改善するための医療を推進。
●はじめに
東京電力福島第1原発にたまり続ける放射性物質トリチウムを含む処理水を国と東電は海洋放出しようとしている。 そのため経産省での有識者会議が8月30日に福島県富岡町、31日に同県郡山市と都内で公聴会を開催した。 この3カ所で開いた公聴会では、海洋放出に反対意見が相次ぎ、大半を占めた。 そしてこの過程で、処理水を貯蔵しているタンク内にはトリチウム以外に、ヨウ素129なども残留していることも判明した。
公聴会の主催は「多核種除去設備等処理水の取り扱いに関する小委員会」で、先行設置された「トリチウム水タスクフォース」以来、 有識者は足かけ6年にわたりトリチウムを含んだ処理水の処分策について検討してきたが、その結論として5つの処分方法を提示した。 その処分方法別の費用は34億円~3976億円と大きな幅があるが、結論としては最も安い費用で済む海洋放出(費用34億円)を行おうとしている。 この方針は東電会長ばかりではなく、原子力規制委員会の更田豊志委員長も「希釈して海洋放出が現実的な唯一の選択肢」と記者会見で述べ、寄生委員会化している。
トリチウムを含む処理水のタンク容量は上限137万トンとされているが、現在すでに約112万トンの汚染水があり、容量の限界に迫っており、また1日に150トンの汚染水が増え続けている。 東電は多核種除去設備(ALPS)で汚染水を浄化しているが、トリチウムは除去できない。 今後は原発近隣の帰還困難地域の土地を買い貯蔵タンクを増やすしかないのであるが、最も安く済む海洋放出を行おうとしているのである。
公聴会の資料では「トリチウムは自然界にも存在し、全国の原発で40年以上排出されているが健康への影響は確認されていない」と安全性を強調し、 また「トリチウムはエネルギーが低く人体影響はない」と安全神話を振りまいている。 しかし、世界各地の原発や核処理施設の周辺地域では事故を起こさなくても、稼働させるだけで周辺住民の子供たちを中心に健康被害が報告されている。 その原因の一つはトリチウムと考えられるが、本稿ではそのトリチウムの危険性を論じる。
●トリチウム【tritium】(記号:T)とは
普通の水素は原子核が陽子1個で軽水素(1H)です。 原子核が陽子1個と中性子1個で質量数が2となっているものが重水素(2H)であり、原子核が陽子1個と中性子2個で質量数が3の水素が三重水素(3H)であり、トリチウム(T)です。 このトリチウムは水素の同位体で、化学的性質は普通の水素と同一ですが、β線を放出する放射性物質であることが問題となります。
トリチウムは天然にも宇宙線と大気の反応によりごく微量に存在し、雨水その他の天然水中にも入っていたが、戦後の核実験や原発稼働によって自然界のトリチウム量は急増した。 問題なのは、原子力発電では事故を起こさなくても稼働させるだけで、原子炉内の二重水素が中性子捕獲によりトリチウム水が生成され、膨大なトリチウムを出すことです。
トリチウムはβ崩壊して弱いエネルギーのβ線を出してヘリウム3(3He)に変わります。 β線の最大エネルギーは18.6keV、平均エネルギーは5.7keVで物理学的半減期は12.3年です。 体内での飛程0.01mm(10μm)ほどです。このため原子力政策を推進する人達はエネルギーが低いので心配ないとその深刻さを隠蔽し、海に垂れ流しています。 人間の体内では、水素と酸素は5.7eVで結合し水になっています。 トリチウムの平均エネルギーは5.7KeVであり、その1000倍以上のエネルギーです。 エネルギーの問題を持ち出すのであれば、セシウムのβ線のエネルギーは512KeVですから体内の電気信号の約10万倍であり、エネルギーの高いセシウムをなぜ問題にしないのでしょうか。
トリチウムの化学的性質は水素原子と変わりなく、体内動態は水素であり、どこでも通常の水素と置き換わります。 人の体重の約61%を占めている通常の水(H2O)は(HHO)ですが、トリチウムを体内に取り込んだ場合はトリチウム水(HTO)の形で体内に存在します。 経口摂取したトリチウム水は尿や汗として体外に排出されるので、生物学的半減期が約10日前後であるとされています。 また気体としてトリチウム水蒸気を含む空気を呼吸することによって肺に取り込まれた場合は、そのほとんどは血液中に入り細胞に移行し、体液中にもほぼ均等に分布します。
問題なのは、トリチウムは水素と同じ化学的性質を持つため体内では主要な化合物である蛋白質、糖、脂肪などの有機物にも結合し、 化学構造式の中に水素として組み込まれ、有機結合型トリチウム(OBT:Organically Bound Tritium)となり、トリチウム水とは異なった挙動をとります。 この場合は一般に排泄が遅く、結合したものによってトリチウム水よりも20~50倍も長いとする報告もあります。
有機結合型トリチウム(OBT)の体内蓄積のパターンの一つは原⼦⼒施設から出るトリチウム⽔の⽔蒸気によって汚染された⼟地で育った野菜や穀物ばかりでなく生物濃縮した⿂介類などの⾷物を摂取することであり、 もう一つはトリチウム⽔の飲食や吸入などによって、⼈体が必要とする有機分⼦の中にトリチウムを新陳代謝して摂り込みます。 なお放射線の生物学的効果を表すRBE(Relative Biological Effectiveness,生物学的効果比)は、γ線は1であるが、トリチウムのβ線は1ではなく、1~2の間という報告が多く、より影響が強いと考えられます。
●トリチウムの人体影響
未来のエネルギーとしての核融合が注目され、盛んに研究が行われていた1970~1980年代には、トリチウムが染色体異常を起こすことや、母乳を通して子どもに残留することが動物実験で報告されています。 動物実験の結果ではトリチウムの被ばくにあった動物の子孫の卵巣に腫瘍が発生する確率が5倍増加し、さらに精巣萎縮や卵巣の縮みなどの生殖器の異常が観察されています。
1974年10月に徳島市で開催された日本放射線影響学会では、中井斌(放射線医学総合研究所遺伝研究部長)らは人間の血液から分離した白血球を種々の濃度のトリチウム水で48時間培養し、 リンパ球に取り込まれたトリチウムの影響を調べた結果、リンパ球に染色体異常起こすことを報告しています。 現在の規制値以下の低濃度でも染色体異常を観察しています。 このような報告から、トリチウムがなぜ危険なのかについては次のように考えられます。
トリチウムは、自由水型のみならずガス状トリチウムもその一部が環境中で組織結合型トリチウムに変換されます。 トリチウムの体内動態は水素と同じであり、トリチウムは水素として細胞の核に取り込まれることがわかっています。 旧友の名取春彦氏は若い時に睾丸腫瘍の細胞を用いた実験で、チミジンでラベルしたトリチウムが細胞の核に取り込まれている写真を著書「放射線はなぜわかりにくいのか」(2013年.P221.アップル出版)に掲載しています。 核の中にあるDNA(デオキシリボ核酸)は四つの塩基(アデニン、シトシン、グアニン、チミン)が二重螺旋構造を形成し遺伝情報を含んでいますが、この四つの塩基は水素結合力でつながっています。 核酸塩基はプリンやピリミジンと呼ばれる窒素を含む複素環であり、塩基性となり水素を受け取る性質を持っています。 水素として振る舞うトリチウムが化学構造式に取り込まれ、そこでβ線を出すため、遺伝情報を持つ最も基本的なDNAに放射線が当たり、 またトリチウムがヘリウム3に元素変換することにより4つの塩基をつないでいる水素結合は破綻します。そして塩基の本来の化学構造式も変化します。 ヒトの細胞は6~25ミクロン(μm)で通常は約10μmの大きさで、その内部にある重要な小器官はすべて1μm以下の有機化合物で構成されています。
放射線の影響は基本的には被曝した部位に現れます。 エネルギーが低くても水素として細胞内の核に取り込まれ、そこで放射線を出して全エネルギーを放出するわけですから影響が無いことはないのです。 有機結合型トリチウムは結合する相手により体内の残留期間も異なります。 図1に人体影響のポイントをまとめて示しますが、トリチウムは他の放射性核種と違って、放射線を出すだけではなく化学構造式も変えてしまうのです。 塩基とDNAの分子構造が変化すれば細胞が損傷されるのです。
図1ではDNAの二重螺旋構造を形成している4つの塩基の一つであるアデニンの場合を示します。 β崩壊後はアデニンの分子構造も破壊され、その結果、DNA構造を破壊し、遺伝情報に影響を与えるのです。 こうした二重・三重の負担をDNAのレベルで与えるのですからいくらエネルギーが低くても安全な訳はないのです。
図1 トリチウムの細胞レベルでの人体影響のまとめ
内部被曝による人体影響はマンハッタン計画以来、軍事機密とされ隠蔽され続けており、トリチウムもそのひとつなのです。 トリチウムがほとんど無害とされ、極端な過⼩評価をされてきたのは、ICRP(国際放射線防護委員会)の線量係数の設定によります。 内部被曝を計算する「実効線量換算係数」は放射性物質1Bqが⼈体全体に与える影響度の単位(Sv)に換算する「係数」のことですが、 1Bq という測定可能な物理量を「⼈体全体に与える影響度」などという「仮定量」に換算するという話⾃体が詐欺的な疑似科学です。
10μm周囲にしか被ばくさせないトリチウムの影響を全身化換算すること自体ができないのですが、 ICRP は放射線核種とその化合物及び摂取の仕⽅(経⼝摂取か吸⼊摂取か)に分けて事細かに全く実証性のない恣意的な換算係数を定めて全身化換算しています。 それによれば、トリチウムの崩壊電離エネルギーが極めて微弱であることを理由に、トリチウム⽔を経⼝摂取した場合、トリチウム1Bqあたりの⼈体全体に対する影響度は、10万分の1.8μSv(HTO:1Bq=1.8×10-5μSv)だとしています。
●原発稼働による健康被害の報告
1945年の原爆投下から始まった環境へ放出され続けている人工放射性物質との出会いは人類にとって初めて経験する負の世界です。 特に戦後の大気中核実験による核分裂で生じた放射性物質は土壌と海洋汚染をもたらし、我々は無意識のうちに体内に多かれ少なかれ放射性物質を取り入れているのです。 ただ測定していないだけなのです。原発通信が最近まとめた日本を含む世界各地の原発周辺地域の健康被害の報告を表1に示します。
最も有名な報告はドイツとカナダからの報告です。ドイツでは1992年と1998年の2度行われたKiKK調査が有名です。 この調査はドイツの原子力発電所周辺のがんと白血病の増加に関する調査です。 その結果は、原子力施設周辺5km以内の5歳以下の子供には明らかに影響があり、白血病の相対危険度が5km以遠に比べて2.19、ほかの固形がん発病の相対危険度は1.61と報告され、原発からの距離が遠くなると発病率は下がったという結果です。
この結果を受け、イアン・フェアリーは「原子力発電所近辺での小児がんを説明する仮説(http://fukushimavoice2.blogspot.jp/2014/12/blog-post.html)において、 がんや白血病に関して、原発近辺に居住する妊婦への放射線被ばくによって発生すると予測しています。 また燃料棒交換時の放射性核種の大気中への放出スパイク(急上昇)が被ばくの増加に繋がっている可能性も指摘しています。
カナダの重水炉というトリチウムを多く出すタイプのCANDU原子炉では稼働後しばらくして住民が実感として健康被害が随分増えていると騒ぎ出しました。 調査した結果やはり健康被害が増加していました。 カナダ・ピッカリング重水原子炉周辺都市では小児白血病や新生児死亡率が増加し、またダウン症候群が80%も増加していました(http://note.chiebukuro.yahoo.co.jp/detail/n153962)。 さらにイギリスのセラフィールド再処理工場の周辺地域の子供たちの小児白血病の増加に関して、サザンプトン大学のガードナー教授は原因核種としてトリチウムとプルトニウムが関与していると報告しています。
日本国内でも同様な報告があり、全国一トリチウムの放出量が多い玄海原発での調査・研究により、森永 徹氏は玄海原発の稼働後に玄海町と唐津市での白血病の有意な増加を報告しています。 同じ原発立地自治体でもトリチウム高放出の加圧水型原子炉と低放出の沸騰水型原子炉の原発立地自治体の住民の間には白血病死亡率に統計学的有意差があることなどから、 玄海町における白血病死亡率の上昇は玄海原発から放出されるトリチウムの関与が強く示唆されるのです。 北海道の泊原発周辺でも稼働後にがん死亡率の増加が観察されています。 泊村と隣町の岩内町のがん死亡率は泊原発が稼働する前は道内180市町村の中で22番目と72番目でしたが、原発稼働後は道内で一位が泊村、二位が岩内町になりました。
なおマウスの実験では、トリチウムの単回投与より同じ量の分割投与の方が白血病の発症が大幅に高かったとする報告もあるが、原発周辺住民のトリチウム被曝は持続的であり、まさに分割投与です。 さらに原発からの距離が近いほど大気中のトリチウム濃度が高いことも分かっています。色々な報告で小児白血病が多いことが共通していますが、小児の白血病の多くは急性リンパ性白血病です。 放射線が白血球の中で最も放射線感受性の高いリンパ球に影響を与え、リンパ性白血病を発症させてもおかしくないのです。
こうしたトリチウムの危険性を知っている小柴昌俊氏(ノーベル物理学者)と長谷川晃氏(マックスウエル賞受賞者)は連名で、 2003年3月10日付で「良識ある専門知識を持つ物理学者として、トリチウムを燃料とする核融合は極めて危険で、中止してほしい」と当時の総理大臣小泉純一郎宛てに『嘆願書』を出しています。 その嘆願書の内容は、トリチウムを燃料とする核融合炉は、安全性と環境汚染性から見て、極めて危険なものであり、トリチウムはわずか1mgで致死量になり、約2Kgで200万人の殺傷能力があると訴えています。
中略●おわりに
原発は事故を起こさなくてもトリチウムのような放射性物質を環境中に放出することから、健康問題の視点から稼働すべきではないのです。 発電技術は代替え手段があります。また日本は地震・火山大国であり、大量の使用済み核燃料の処理もできない状態です。 原発は国民の選択で止められます。 原発政策を推進する政権を変えることが最も有効な安全保障なのかも知れません。 また六ヶ所村の再処理が始まれば原発稼働どころではない大量のトリチウムを海洋流出することとなり、全世界的に悪影響を及ぼすことになります。 このように原発事故が起こらなくて、稼働により放出しているトリチウムが健康被害に繋がっているのです。 トリチウムは原発から近いほど濃度が高く、それに食物連鎖で次々、生物濃縮します。 処理コストが安いからと言ってトリチウムを海洋放出することは、人類に対する緩慢な殺人行為なのです。
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